渡辺一史原作『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』が大泉洋主演で映画化されました。
この映画は、筋ジストロフィーという難病を患った鹿野靖明とボランティアの物語です。
主役はもちろん鹿野靖明ですが、鹿ボラと呼ばれたボランティアたち抜きには成立しない物語です。
この記事では、映画に登場したボランティアたちが実在するのか?と原案ノンフィクションに人物追加された理由について解説しています。
映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」に登場したボランティアは実在するのか?
映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」には、原作には登場しない(実在しない)ボランティアが登場しています。
ここでは、実在するボランティアと実在しないボランティアに分けて解説します。
実在するボランティア
それでは、まず実在するボランティから個別に解説します。
<役名・前木貴子(渡辺真起子)>
映画における前木貴子は、原作でも実在します。
昼間の介助の中心である主婦ボランティアの才木美奈子です。
映画の中で、ボランティアたちに入浴の研修をする場面で、鹿野の股間を見ながら「さて、今日のジョン君の様子はどうかなぁ」と言うシーンがありますが、
原作でも、才木が「ジョンのここんところに湿疹ができてるんだわ」と言うシーンがあります。
正式名は、ジョン・シェパードで、名付け親は訪問看護師の畑です。
実際には、才木は月10万円の介助報酬を鹿野から受け取り「昼」の週5回を担当する有償の専従介助者だったそうです。
<役名・高村大助(萩原聖人)>
映画における高村大助のモデルとなったボランティアは、おそらく鹿野の古くからの友人で、鹿野の住む「道営ケア付き住宅」に敷設されたケアステーションの泊まり専門の介助職員である高橋雅之です。
高橋は、日常の介助のほかにプライベートで鹿野の外出の手伝いをするなど、鹿野に関することならなんでもOKで「鹿ボラの守護神」と呼ばれてたくらいです。
また映画でもカメラを手にして鹿野と安藤美咲を撮影するシーンがありますが、原作にも趣味のカメラで、鹿野やボランティアたちのスナップを写してプレゼントしていたと記述があります。
ただ、原作に書かれている風貌が萩原聖人とは全く違っている点で、
もう一人、北海道大学法学部の学生だった1983年から鹿野が亡くなる2002年まで20年近く鹿ボラの中心人物だった舘野知巳の要素も含まれているのではないかと感じました。
実在しないボランティア
この映画において、鹿野を含めたラブストーリーに絡むボランティア役の高畑充希さん(役名・安藤美咲)と三浦春馬さん(役名・田中九)は原作には存在しない架空のボランティアです。
ただ、原作に出てくる何人かのボランティアのエピソードをこの二人に凝縮させています。
<役名・安藤美咲(高畑充希)>
安藤美咲というボランティアは実在しません。
しかし、この映画の題名にもなっている「こんな夜更けにバナナかよ」の元になった事件の当事者は安藤美咲です。
原作におけるこの事件(事件の内容は映画と原作で異なる)の当事者は、当時北海道大学農学部の学生だった国吉智宏です。
国吉は1994年(平成6年)から卒業するまで鹿ボラを続けました。
国吉は、その時の体験をNHKの入社試験の作文で書いて合格しています。
また、映画の安藤美咲のように鹿野が好意を寄せた女性ではありませんが、
鹿野が秘書と呼び、会報作りやボランティア募集の窓口など若い学生ボランティアの中心的存在だった遠藤貴子(当時北海道大学理学部の学生)は、安藤美咲のモデルではないかと思います。(あくまで個人的見解)
実際、その後大学に通い直して教員免許を取得しています。
<役名・田中久(三浦春馬)>
このボランティアも実在しません。
映画では、田中久に複数の実在ボランティアを凝縮させているなと感じました。
まず、非常に要領が悪く、物覚えも悪いと言う点で、鹿野から「帰ってイチから勉強し直して来い!」と言われた内藤功一(当時北海道教育大学3年)が該当すると思います。
もう一人は、鹿野がタバコを吸わせろと言った時に拒否をした山内太郎(当時北海道大学教育学部2年)でしょう。
映画の中で、田中が鹿野にタバコやめたほうが良いんじゃないですかと言うシーンがあります。
また、アダルトビデオを借りに行って、鹿野の自慰行為を手助けしたのも山内でした。
映画にも同様のシーンがありますよね。
実在するかしないか微妙なボランティア
映画に登場するボランティアで、ズバリではないものの、原作になんとなくイメージの合うボランティアがいるので、
個人的見解として推察してみました。
<役名・塚田心平(宇野祥平)>
正直、映画での塚田にピッタリ該当する人物が、原作では見当たらないんですが、
強いて言えば、社会人ボランティアの片桐眞ではないかと思います。
単純に塚田が学生に見えないからと言う理由がひとつ。
また、大学卒業後民主党議員会職員に従事するかたわら、月2回ほど鹿野邸で泊まり介助を担当していて、
鹿野との付き合いもかなり長いと言う点からも塚田新平は片桐眞ではないかと推察します。
<役名・城之内充(矢野聖人)>
こちらはちょい役で、ほとんど目立つシーンはありませんが、
原作でもちょっとだけ出てくる、短髪で色黒。二枚目である。
どこから見ても、今風のイケてる大学生だった。
と表現されている言葉使いも含め軽い雰囲気の医大生川堀真志ではないかと推察します。
原案ノンフィクションに登場人物が追加された理由
それでは、なぜ原案ノンフィクションには登場しない(実在しない)ボランティアが映画では追加されたのでしょうか?
その一番の理由は、全国300館でロードショー公開する映画のため、どうしてもエンターテイメント色が必要になり、原作にはないラブストーリーを組み込む必要があったからです。
また、鹿野に関わったボランティアは、1983年(昭和58年)当時はまだ車椅子生活を送っていた鹿野が「自立生活」を開始した時から亡くなる2002年まで約20年の間に何百人と存在するわけです。
映画では、その20年を約2時間に凝縮しているわけなので、当然ボランティアのエピソードも限られた登場人物に凝縮せざるを得ないということです。
その点を考慮すれば、原作にないエピソードを加えつつも、なかなかうまくまとめていると思いました。
まとめ
- 映画でのボランティアの主役(安藤、田中)は実在しない
- 映画でのボランティアの主役(安藤、田中)には、複数の実在ボランティアが凝縮されている
- 前木と高村にはモデルになった実在ボランティアが存在する
- 原作にないボランティアが登場したのは、映画にエンターテイメント性が必要だったからである
映画に登場するボランティアはそれほど多くないですが、実際には鹿野が亡くなるまでに関わった鹿ボラは何百人といるわけです。
原作本には、その中でも鹿野に深く関わった20名ほどの鹿ボラのエピソードが書かれています。
とても面白いです。
ぜひ機会があれば原作も読んでみてください。
こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち (文春文庫 わ)
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